あなたの人生の脇役という箱のなかに、私を閉じ込めないでください。

そうやってちゃんと抵抗できるようになって以降、息をするのがずいぶんとらくになった。

なお、誰しもが自分の人生の主人公なので、誰かの人生で、私が脇役として配置されること自体は、「当然の当然の当然です!」「好きにしといちゃってください!!」っていう気持ちでいる。

それぞれ、みなさまのお気にめすままに適当に配置してほしい。木の役とかでもいい。出番がほぼなくても、なんなら一切なくても、あなたの好きにすればいいことだ。

多少私が怪訝に感じたとしても、変えられるものではないと思っている。だってそれは、あなたの頭のなかにしかない世界だから。

が、閉じ込められるとなると話は別だ。

閉じ込められるとは、他者の脇役として活動する時間や、他者のために費やす資産が増えすぎてしまって、私自身の人生を運営することが難しくなる状態を比喩している。

ざっくりまとめるなら「搾取」がいちばん近いだろうか。もしくは「洗脳」「説得」あたり。

ありがたいことに今の勤め先は過ごしやすく、関わる人にはプライベートも含めて恵まれていて、365日のうち350日程度はほかほか暮らせているのだが、それでもごくたまに、自分の目的を滞りなく遂行するために、他者のカードを奪うのに躊躇ない人は突如、現れる。

今年の夏、土曜日のひる、不動産会社で希望条件を徹底的に研ぎ澄ますことの大切さを説かれた。

どんな家に住みたいのか、自分のなかではわりと固まっていたので、とりあえずまず、どんなスーパーが近くにあるとうれしいかの話をした。好きなスーパーが多すぎるので、おおむねどのスーパーが近くにあったとしても幸せだ。

しゃべりながら、夢っぽい色合いの未来がふくふくと膨らみ始めた。だけど、その話は時間の都合で早々に切り上げを求められる。そして、彼女からは、「いかに希望条件を削ぎ落として、妥協点を見出すことが大切なのか」を説かれたのであった。

あ、これは。この人の箱のなかに入れられる、予兆である。そう察知した。

妥協はぜんぜんするつもりでいた。でも、日当たりと部屋の広さ、どちらをとるかといわれたら「両方」としかいえない。しかし、彼女は、いくつかの言葉を用いながら、なるべく直接的にならないように配慮をしつつも「諦めることの大切さ」を丹念に解いていく。それはまるで、彼女の業務をよりコンパクトに遂行するための序章のようであった。

セールストークが展開されればされるほど、心がしゅるしゅると水分をなくして、夢っぽい色は勢いよくくすんだ。私の買う家のことは私に決めさせてほしいんだけどな。

とんでもなく高価な、もんのっすごい壮大な言い方をしてしまうのなら、命をかけた買い物(と、書いてみたはいいがなんだか鼻につく表現だ)を、あなたの営業成績の一端として、あなたの理念優先でシステマティックに片付けられてしまうわけにはいかないのだ。

家を買うのはもう少し先にする。

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