甲府市の風景

ここ2年くらい旅行に行きづらい日々が続いているが、そのなかで、かろうじて縛りが和らいだのが去年の10月くらいから年末年始の間だった。

当方ふらふら出かけるのが大好きだ。とはいえ、10月に緊急事態宣言があけるまでの間は、近所や自宅のなかでできるだけ楽しむよう努めて、遠くに思いをはせることを控えていた。そして、そうこうしているうちに、小さなフラストレーションが少しずつ積み上がっていたように思う。

いよいよ連休がさしせまった12月27日の日中、仕事をしている途中にふと「あ!山梨行きたい」と思った。思い始めたら止まらなくなっていた。

なぜ山梨に目が向いたのかというと、その日、もなかの容器入り信玄餅が新発売された件がTwitterのトレンドに上がっていたからだ。あの、多方面に根強いファンを持つ山梨銘菓の信玄餅が、環境に目を向けた画期的な容器を発明したとなれば、トレンドに上がるのも当然だろうと強くうなずいた。

なんでも、もなか容器の信玄餅は、今のところ山梨県内の数店舗でしか扱いがないそうだ。それでふと、山梨に行ってみるのもいいなぁと思った。ただ、そんなにもなかがが欲しかったのかというと、そうでもなかった。いつかは食べてみたいけど、すぐじゃなくてもよかったのだ。

だけど気持ちは止まらなかった。きっときっかけはどんなことでもよかったのだと思う。わたしは、東京の外に出たくて仕方がなかったのだ。さっそく山梨のドーミーインを予約したところ、29日に宿泊をするつもりだったのに、28日に宿泊する手続きをすませていた。

特急あずさに乗るのははじめてだった。

これが狩人(歌手)が歌っていたあのあずさなのかーと思いつつ(1977年の歌なので、車体の種類とかはもう全然違うのだろうが)、8時じゃなくて20時ちょうどのあずさ53号に、さっき買い込んだアサヒビールとお菓子とともに乗り込んだ。

20時ちょうど
あずさ
2年ぶりくらいに車内で飲むビール

久しぶりの鉄道の指定席だった。全員同じ方向を向いていて、立っているお客がいない。ひとりひとりに自席があるというゆとりの世界。自席でビールを開けることが許されている世界。しかもトイレがやたら広くてきれい。足を置く場所にも、足を自由にぶらんとさせられるくらいの余裕がある。特急ってなんて優雅なんだろう。内側は優雅なのに、外側から見ると速いというギャップ構造もたまらない。

そう思っているところにふと、時々金属がこすれる音が聞こえ、「なんの音だろう?」と真っ暗な車窓を眺めてみたけれども答えは掴めぬまま、気がついたら甲府に到着していた。

21時をまわっていた。風が冷たくて、コンビニと居酒屋の灯りだけ元気だった。

自分の意思でここまで来たはずなのに、甲府にいる実感がまるでわかなかった。「ヨドバシカメラ」の文字の横に「甲府」の文字があるのを見て、「甲府!」と大声で叫びそうになるくらい、実感がなかった。(でも、急に駅前で地名を叫んだら、周囲の人たちがびっくりするだろうからこらえた)

文字(甲府)の立場からしたら、意味わからん事態だろうと思う。事実を視覚的にわかりやすく伝えるために書かれただけなのに、発狂される時がくるなんて。しかも、うっかり乗り過ごすとかで予想外の場所にきたとかでもなく、自分の意思で甲府にきたはずの人に「うそ!」みたいなテンションで叫ばれるのだ。たまったもんじゃないだろう。

だけど、心はまだ東京にいて、文字だけが甲府だった。長らく遠出をしていなかった間に、東京じゃない場所にも自分の身をおける事実に、心がついていかなくなってしまっていたんだと思う。

「事実だ。これは事実だ。わたしを今取り囲んでいるのは甲府だ。」

そう言い聞かせてもまだ、ぽやぽやする。はなの舞があるけど、ここは中野じゃなくて甲府。四文屋もローソンも山内農場もカラオケbanbanも東京にもあるけど、ここにあるのは「甲府」駅前の店。

気がついたら、ふだんよく見かけるチェーン店たちに「甲府店だから」という理由でシャッターを向けていた。数年後に「これは一体なにを撮った写真なんだろう」と思いそうである。でも、スマホの容量は十分にあるし、撮りたいならとればいいと思い、自分を止めるのはやめといた。

甲府のヨドバシ
甲府のはなの舞、甲府のカラオケbanban
甲府の山内農場
甲府の四文屋と甲府のローソン(奥にあるやつ)

その晩は鮮魚とラーメンを食べた。喜びの沸点がすっかり低め設定になっていたわたしの頭には、甲府の名物を食べようという思考が一切わかなかったのだ。山梨は海なし県である。

翌日の朝はホテルの温泉にゆっくりつかったあと、セブンイレブンの肉まんを食べた。買う時に「肉まんにからしは、おつけしますか?」と聞かれた。北関東で生まれて、東京で暮らしてきたわたしにとっては生まれて初めての質問である。使い方がよくわからないけど、とりあえず試したいと思って「はい!」と答えた。からしを付けた肉まんは、いつもよりしっかり辛くて別の食べ物みたいだった。

付けすぎたかもしれない

そのあと信玄餅を売ってる「桔梗屋」の本店に自転車で向かった。特に張り詰めた気合いもなく、お昼頃買いにいったので、もなかの容器の信玄餅は売り切れていた。店員さん曰く「毎日仕入れてはいるが午前中のうちに売り切れる」とのこと。

本店

ふつうの信玄餅と、正月用の餅(売ってるんだ)を買い、そのあと近隣のスーパーを物色した。時計の針は14時をまわっていた。

ここでやっと山梨の名物を食べて帰ろうかという思いがわきあがり、吉田のうどんを食べることにした。ほとんどの店は既にしまっていたので、唯一やっていた駅ビルのお店で食べることに。甲府周辺の吉田のうどんの店は、14時くらいに閉まるお店が多いらしい。

駅ビルのお店にたどり着き、窓際でうどんをすすりながらワインを飲んでいたら、奥の方から、素人とは思えない滑舌とリズム、声の大きさで食レポが展開されはじめたので、じっと耳をすませてみたところ、どうやら激辛YouTuberが激辛メニュー「煉獄」に挑戦しているとわかった。

その時の動画、これだ。「煉獄」めちゃくちゃ辛そう。

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