先週の土曜日の話をしたい。あの日の私は、週明け早々にはどうにかしないといけない、開けたてのティッシュのようにまっしろな執筆予定の原稿を3本、ライターさんから受け取った未編集の原稿を1本ほど抱えていた。にもかかわらず、「これには行っておきたい」となにかに導かれるように、いや、それは言い訳かもと思いつつも、地元である群馬県伊勢崎市で開催されたイベントに向かっていた。

東武線に揺られ、乗り換えをミスり、前後左右から風がびゅうびゅう吹きつけてくるベンチに座りながら、じっと電車が来るのを20分弱待ちわびて、イベント会場である、横浜のやつよりもだいぶコンパクトな赤レンガの倉庫にたどり着いた。

数日が経ったいま、その4本の原稿が無事どうにかなったから話せる話である。どうにかならなかったらどうするつもりだったのだろう、とも思うが、どうにかなったので自主的によしとしておきたい。

そのイベントは、「<伊勢崎市誕生20周年記念事業>~たべて・しゃべって・いきあって~移民グルメ最前線!北関東の外国人コミュニティをめぐる旅」というもので、ライターの室橋裕和さんと映像ディレクターの比呂啓さんが、北関東の外国人コミュニティにおける食体験をざっくばらんに紹介しあうものだった。

お二人が巡っている場所のいくつかに関わるのが、北関東を東西に走る国道354号線なのだが、この国道はかつて私の通学路であり、はじめて覚えた国道番号でもあった。

私は、自分で自覚するかぎりはノスタルジー的な感情が希薄なほうで、普段そんなには過去を積極的に反芻しようとはしないのだが、354線と異国飯の関係性については、無性に知りたい気持ちがあった。

実際に行ってみて、懐かしいとかそういうのとは別の意味で、子どもの頃を思い出した。私の住んでいる地域は工業地帯からも近く、外国人労働者が多く住んでいて、クラスに数人はその子どもたちがいた。ブラジル、ベトナム、中国が特に多かった。

日本語をしゃべるのがめちゃくちゃ上手な人もいれば、まったくしゃべれない人もいた。しゃべれなくてもなんとなく陽気にすごしている人もいれば、コミュニケーションがはかれないことにストレスを感じている様子の人もいて(どうにかしたくても、どう関わればいいかがまったくわからなかった)海外とひとくちにいってもいろいろだった。

私は外国人のAちゃんという子と仲が良かった。そしてあるとき周囲から、外国人と仲良くしていることを揶揄されたことがあった。「今日もあの子と帰るの?」「あの子って外国人だよね」と言われた記憶が朧げにある。

いまだったら、帰り道のことは私個人の自由だし、そこに国籍を持ち出す意味がよくわかりませんって、ちゃんと言いたいって思うだろう。でも、当時の私はただただ、表情をなるべく歪めずに「はい。帰ります」って返事をするのが精一杯だった。

Aちゃんは、明るく快活で、日本語が私よりずっと上手だった。

私たちは特段周囲の差別意識について具体的に話すことはなかったけど、私が周りになにか言われているのを察したAちゃんは、「むりしなくていいよ」と言ってくれたことがあった。

あのときAちゃんはどんな気持ちだったんだろう。いまだに明確にはわかってない。生まれた国で育ち、そのまま暮らし続けることしか体験したことがない私には、生まれた国と暮らしている国が違い、それによって少なからず、心無い言葉を浴びたことのある人の気持ちは、どんなに想像をめぐらせたとて、本当の意味では知ることができないんじゃないかと思う。

顔のつくりが違う。名前に使われる綴りが違う。そういった、誰にもどうにもならない類の違いに対して、遠慮なく敏感になっている子どもたちのなかで、子どもとして過ごしていくのって、どんな感じだったんだろう。

というか、私自身もどこかで加害的なことをさも平然としていたのでは? 

この気持ちをどうすればいいかはまだ全然わからなくて、収束のしようもないような気がしているのだけど、せめて当時、住んでいた場所付近でどんなことが起こっていたのかを、体系的に知る手がかりになるかもしれないと思って『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』を買ってみた。

イベントには行ってよかったと思っている。実家周辺の地域性のようなものにこれまで以上に自覚的になれた。個性とか、そういう類のものじゃなく、たまたま生まれた場所で、たまたま対峙した境遇によって、生成された自己はどうしても存在する。これらとの付き合い方を以後も時々は考えていきたい。

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